2009年 苫小牧研究林にて地球温暖化に対する冷温帯森林生態系の生物多様性の応答実験スタート。
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日付:2009年
小咄:
二酸化炭素などの温室効果ガス濃度の上昇により、今世紀中に地球全体で2度から5度(前世紀は0.5度の上昇)の急激な地球温暖化が生じることが予想され、この上昇幅は北海道のように高い緯度になるほど影響は大きいと考えられている。地球規模で環境や社会に私たちが想像しえない関係性のもつれを生み出し、大きなスケールで深刻かつ不可逆な影響を及ぼすことが指摘されている。我々が予想しえない未知であることが起こることが存知のことと言えば良いのだろうか。ともあれ、同様に生態系に限って見ても、その応答は、直接的、及び間接効果となって複雑に働く可能性があり、予測も単純ではないことが容易に予想できる。
苫小牧研究林では「地球温暖化に対する冷温帯森林生態系の生物多様性の応答実験」が行われている。この実験は、地理的スケールで葉の形質と生物群衆のパターン解析に加え、大規模操作実験によって、その関係性のメカにズムを明らかにしようとする研究プロジェクトの一環として行われている。地下分(土壌)では電熱線の発電により土壌に5度の温度差を作り出し、制御装置でコントロールしながら、地上部と地殻の温暖化が森林生態系に与える影響やメカニズムの解明しようというものである。特定の地域に生息する植物群落を構成する植物の種類が時間の経過とともに、別の植物群落に移り変わることを「植生の遷移」と言い、苫小牧研究林において遷移後期種として位置付けられているミズナラを対象とした温暖化実験が行われたことを中村林長自ら解説いただいた。
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林冠観測用ゴンドラ@苫小牧研究林
日本で唯一設置されている林冠観測用ゴンドラからアプローチ可能なエリアでこの実験は行われており、ご好意でゴンドラにも乗せて頂いた。ゴンドラはおよそ0.5haの林冠エリアにアプローチができ、そこから眺めるパノラマは格別だが、ふと樹冠上部を見下ろすと、枝葉に、それぞれ実験で使われた場所を示すたくさんのマーカーがつけられており、地上から眺める実験林の様相とはまた別の視点を与えてくれる。
光を受けやすい樹冠付近では、樹木は厚く小さな葉をつけ、徐々に上部の葉によって光が少なくなっていく下部の葉は、大きく薄くなっていく。地面からではわかりにくいが、樹木は、葉のつき方をレイヤー状に変えていることが、地上の葉とゴンドラに乗って樹冠付近の葉を触り比べてみるとその違いを体験することができる。虫たちは、樹木が展葉すると柔らかい葉から食べながら、季節によって移動していく。そのため、温暖化実験において、葉の形質と葉の上で生活する虫たちとの生態系を調査するべく、衆樹冠上部にもアプローチできるこのエリアで実験が行ったそうだ。
この実験で見えてきた効果として、地上部(枝)では、温暖化は、展葉を早め、落葉を遅らせ着葉期間を長くさせること。またヒグマの好物ドングリの生産量も増加するそうだ。一方、地下分(土壌)を温暖化すると、葉に含まれる炭素と窒素の量を比率を表したC/N比(炭素率)を増加させ、食害度を低下させることが明らかになった。つまり、北海道では温暖化すると、一般的に着葉期間も増え、それを食す昆虫も増え、森林に深刻な食害を起こすと考えられていたが、土壌の温度上昇によって美味だった葉っぱが苦くなり、虫が食べると美味しくなくなってしまう可能性があるという。
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樹冠上部の葉は地上部の葉に比べ柔らかく薄いことが体験できる@苫小牧研究林
土壌の温度変化というパラメータが一つ加わるだけでも、それが複雑に働く間接効果の一つとなって、一般的な予測とは異なる結果が導き出されることがあるということで、予想することの難しさを実感する。科学者が鳴らした汽笛に応じる様に、政治や経済の模索が難航する中、芸術の分野はこうした取り組みに対してどのように関与することができるのか。有機物由来のインクや再生紙を用いたフライヤーの制作、展覧会会期後に木材などの廃棄物を出さないように配慮する取り組みなどが多く散見されるようになっているが、高い緯度に位置するここ北海道/札幌で開催される芸術祭が、こうした問いにどのように関わっていけるのか、換言すれば、札幌国際芸術祭はそのあり方を探るには絶好の場所であることは他ならない。本祭の傍らを並走するという意味も持った本SIDEプロジェクトを通しても、そうした考えを深めていきたい。
場所:
#苫小牧市
関係者:
#タイプ:出来事_SIDE-B
#2009年